第18話:誰かに自分のことを話してみたいと思えた日
~「一人じゃない」と感じられた日~
前回は、自分を責める日が少しずつ減っていったことを書きました。
「自分なんて」と思わない日が増えていくことは、私にとってとても大きな変化でした。
でも、心の中にはまだ、他人には見せられない「弱さ」や「恥ずかしさ」が残っていました。
「自分のことを誰かに話す」というのは、私にとって大きなハードルでした。
「迷惑をかけたくない」
「重いって思われたくない」
「心配させたくない」
そんな気持ちが、ずっと私を黙らせていたんです。
でもあの日、私は初めて「話してみたい」と思えたんです。
◆ 「大丈夫?」の言葉に戸惑った
あの頃の私は、誰に会っても「大丈夫?」と聞かれるのが嫌でした。
本当は全然大丈夫じゃないのに、
「大丈夫」って笑って返すしかなかったから。
でも、ある日。
久しぶりに会った友達が、私の顔をじっと見つめて、
「無理してない?」と、小さな声で聞いてきたんです。
そのとき、なんだか胸の奥がズキンとしました。
「無理してる」なんて、今まで誰にも気づかれたことがなかったから。
でも、私はまた笑ってしまいました。
「全然平気だよ」って。
そのとき、友達は何も言わずにうなずいて、
「そっか」とだけ答えてくれました。
◆ 帰り道、心に残った言葉
家に帰る途中、
「無理してない?」の言葉がずっと心に残っていました。
「無理してること、バレてたんだ」
「笑ってごまかしても、見抜かれてたんだ」
なんだか不思議な気持ちでした。
恥ずかしいような、でも少しホッとするような。
「この人なら、話してもいいのかな」
そんなふうに、ふと思ったんです。
これまで私は、誰にも心の中のことを話せませんでした。
「話しても分かってもらえない」
「どうせ否定される」
そう思い込んでいたから。
でもその日は、
「もしかしたら聞いてもらえるかもしれない」
そんな希望が、ほんの小さな光のように心の中に灯った気がしました。
◆ 小さな一歩を踏み出した夜
その日の夜、私はスマホを開きました。
そして、友達に短いメッセージを送りました。
「今日は会ってくれてありがとう。
ちょっとだけ話したいことあるかも。」
送信ボタンを押す手が、震えました。
「やっぱりやめようかな」
「変に思われないかな」
何度もメッセージを削除しようと思いました。
でも、そのまま送信して、スマホを伏せました。
怖くて、返信が来るまでの時間がすごく長く感じました。
しばらくして、スマホが光りました。
「いつでも聞くよ。大丈夫だよ。」
その短い返事に、また涙が出ました。
何を話せるか分からないけど、
「話してもいい」って思わせてくれるその言葉が、
私を救ってくれました。
◆ 少しずつ、話せるようになった
次に会ったとき、私は少しずつ、心の中にあったことを話しました。
「朝起きるのが怖いこと」
「誰にも会いたくない日があること」
「頑張らなきゃって思っても、体が動かないこと」
言葉を探しながら、
時々沈黙しながら、
少しずつ、少しずつ。
友達は、何も急かさず、ただ静かに頷きながら聞いてくれました。
「そんなふうに思ってたんだね」
「よく話してくれたね」
「大丈夫だよ」
その言葉に、心が温かくなりました。
「話しても大丈夫だった」
「嫌われなかった」
「ちゃんと受け止めてもらえた」
その感覚が、私の中で大きな支えになりました。
◆ 「誰かに話すこと」の意味
誰かに話せる自分になれたこと。
それは、うつ病と向き合う中で、とても大きな一歩でした。
「話すこと」は、誰かに頼ること。
「頼ること」は、弱いことだと思っていました。
でも、頼ることは「信じること」なんだと気づきました。
「この人なら受け止めてくれる」と信じることができたから、
私は初めて、心の中のことを話せたんだと思います。
話したからといって、すべてが解決したわけじゃない。
でも、心の中に溜め込んでいた“重たいもの”が、
少し外に出せたような気がしました。
「一人じゃない」って感じられるようになった日。
それが、私にとっての第18話です。
【前話】
【次回予告】
「笑える日が少しずつ増えていったこと」